ハイデッガーは＜思惟とは何か?＞という講義で、「科学は思惟しない」と言ったことがある1)。科学者が聞 けばあきれて驚く言葉だ。思惟せずにどうして科学的探求をするというのか?しかし、ハイデッガーの真意を 知ると、驚くほどではない。科学者が科学的探求をする時にする思惟とは全く異なる性格の思惟があるとい うことを理解すれば、十分に納得できる言葉である。
ハイデッガーがそう言ったのは、科学は物事を計量、分析し、その現象の根拠を明らかにして原因を説明 するが、これらすべての前提となる「理解地平」、「解釈地平」である「存在の意味」そのものについて「省 察」しないことを表明するためであった。これを別の言葉で解釈するなら、科学は人生全体の目的的な意味 関連を省察せず、ただそのような意味関連が与えられた時、それに奉仕する手段を探すための作業をするだ けだということだ。
目的と価値に対する知恵を得るためには、もちろん人間的な生活の基本である自然についても幅広い知 識を持たなければならないが、それよりも生活全体の目的的な意味関連、すなわち人間の生活条件、人間ら しさの本質、人間の本性と宿命などに対する人文学的な省察も必要であり、人間の共同体的な生活の本質 とその限界、可能な方式などに対する社会科学的な知識も必要である。明らかに、「ある事実」についての 知識を得るための思惟と、「あるべき価値」についての知恵を得るための思惟とは異なるものである。
人間を指す学名homo sapiens
（思惟人）
が言うように、人間の本質がその思惟活動にあるということは、古今東西を問わず周知の常識だ。人間が「万物の霊長」として世界を支配するようになったのは、その思惟 活動のためというのだ。ところが、思惟に対するハイデッガーの省察が次元の高い思惟の地平を明らかにし ようとしているのとは異なり、今日の人間の思惟活動には前代未聞の自己矛盾的な事態が起っているのも事 実である。
21世紀に入った今日の人工知能の輝かしい戦功は、まさに日常人の想像を絶するものだ。電車が一人で運
066
完、強化、代替することによって「homo sapiens」としての人間の位相に画期的な変化が起こり、人間の思 惟活動を基盤とする今日の人類の文明全体が決定的な転変を迎えていることは確かだ。 他の動物とは対照的である。人間はいわば非武装の無気力な「欠乏存在(Unbewaffnetes Mangelwesen)
6)」だ。そのため、その生存方式が自然に確定しているものがほとんど何もない、不安定な未定形の存在なの
4) Alvin Toffler, The Third Wave, Bantham Books 1980
5) 2016年6月にスイスで開かれたDavos Forumでフォーラムの議長を務めたKlaus Schwab教授が初めて使用したことで話 題になった用語。
6) A. Gehlen, Der Mensch. Seine Natur und seien Stellung in der Welt, Wiesbaden 1976(1940) 참조
7) M. Scheler는 이런 상황을 ‘세계개방성’(Weltoffenheit)이라고 일컫는다. Die stellung des Menschen im Kosmos, München 1962(1928) 참조
人間はこのように、与えられた内的自然
（身体的構造と機能）
が取り囲んでいる外的自然（環世界）
に合致9) ‘Belastung – Entlastung’: A. Gehlen의 표현
10) ‘homo sapiens'(思惟人)와 대조되는 ‘homo faber’(工作人) 인간관의 배경
11) M. Heidegger, Die Technik und die Kehre, Tübingen 1962; 12쪽 참조 [이기상 역], 기술과 전향, 서광사 1993, 33쪽 참조. 하이데거는 여기서 한 걸음 더 나아가 기술이 현실을 드러내 주는 진리라고까지 주장한다.
068
せれば人間を凌駕する算術的思惟能力を持って作動する「思惟する機械」を作ることができるとみてこれを
15) Alan Turing, "Computing Machinery and Intelligence". Mind 49(1950)
16) 김영석, 정보화 사회와 뉴미디어, 최정호 외편, 정보화 사회와 우리, 소화 1995 중 제 2장 45쪽 이하 참조.
070
する（自然選択； natural selection）
」、「進化(Evolution)
」の過程で説明した人がダーウィンである。進化の 様相に変化するとはいえ、その変化があまりにも長久な期間にわたって非常にゆっくりと行われるため、長17) Genetic Technology, Nano-technology, Robotics의 약자
ることで人体の生物学を再編」し、「疾病を根絶して寿命を驚くほど延長」できるようにすることがG革命で
072
ることであり、それに伴う個々人の行動方式、つまり規範を定めることである。
思考の一方向である数理性の方向の最高類型としては記号的思考
(formal symbolic thinking)
があり、も う一方向である芸術性方向の最高類型としては象徴的思考(material symbolic thinking)
がある。記号的思 考は収束的思考または垂直思考の最高峰といえ、象徴的思考は発散的思考または水平思考の最高峰といえ る。前者の代表例としては形式論理学や数理論理学の領域があり、後者の代表例としては芸術家の創作活23) 이하, 김영정,「창의성과 비판적 사고」, 철학사상, 별책 (서울대 철학사상연구소, 2005) 에서 원용
074
動を挙げることができる。前者を実証的方式の思考とすると、後者は象徴、寓意、標徴などの手法で、イメージ の媒介により形状化できない超自然的な世界、内面、観念などを受容して伝達する思考機能をいう。
この二つを除いた残りの類型は、より普遍的で一般的な水準の思考能力といえる。分析的思考
(analytical thinking) は意味の把握能力、翻訳能力、解析能力、外挿内挿能力などを含む理解力と、資料 をその構成成分に分解し、その部分間の関係とそれが組織されている方式を発見する分析力を含む。推論 的思考
(inferential thinking)
は演繹的推論能力と帰納的推論能力で構成され、ある主張に対する正当な 根拠を提示したり、与えられた資料からある結論を導き出す思考をいう。総合的思考(synthetical thinking)
はさまざまな要素や部分を一つの全体になるように結ぶ思考で、創造的思考と類似している。代替的思考(alternative thinking)
は与えられた事態に対して発想転換をしたり、視野の地平を拡大してより良い代案を 創案する思考のことだ。25) N. Hartmann, Teleologisches Denken, Berlin 1951, 64쪽 이하 ; Ders., Neue Wege der Ontologie, 손동현 역, 존재 론의 새로운 길, 서광사 1997, 163쪽 이하
したことが時間的に後を追うことを決定するという意味だ。機械的に作動する物理的な世界がその典型で
」を区別したもの、さらに「純粋理性