在来木本植物を利用する
切り取りのり面の緑化
愛媛大学農学部
○江崎次夫・井上章二
岩本
徹・河野修一
藤久正文
江原大学校
車 斗松・全 槿雨
山林科学大学
研究の経緯(背景)
1.
地域に固有の生態系の維持、景観および
温暖化防止などの地球環境的な見地より、
在来の木本植物によるのり面の緑化が全
国的な広がりを見せている。
2.
しかし、木本植物によるのり面緑化では,
一部の県や地方で明確にされているとこ
ろもあるが、その具体的な技術マニュア
ルは全国的には明確にされていない。
研究の目的
1.
本研究の最終目標は、技術マニュアルに組み
入れる基礎的な資料を得ることである。
2.
そのために、平成8年より西日本の暖温帯地
帯に広く分布する在来の木本植物を用いて国
道切取りのり面の緑化を試みてきた。
3.
今回は、これまでの8年間の成長経過の調査
から、在来木本植物を用いた早期樹林化の可
能性を明らかにすることを目的とした。
実験場所および調査方法
1.実験場所は松山市の中心部から北東約18kmに位置する松
山市大井野町の国道317号線の切り取りのり面である。
2.切り取りのり面には吹き付け法枠工が実施されている。
この試験地一帯ののり面は、基岩の花崗岩が深層風化し
ており、表層崩壊を防止するために、約20m深までグラ
ンドアンカ-が打ち込んである。
3.実験では、導入木本の種類の相違、成立期待本数および
草本類の有無などによって試験区を、A、B及びCのタ
イプに分けた。種子は吹き付け用の基盤材(バ-ク堆肥、
肥料、接合材、pH緩衝材)に混入し、法枠内に吹き付
けた。吹き付け厚さは5cm、7cmおよび10cmとした。
4.調査ではのり面に設置された2m×2mの法枠194個の中か
らA、BおよびCタイプの吹きつけ厚さごとに24枠を選
び、のり枠内のほぼ中央部に1m×1mのコドラ-トを設定
した。
5.実験開始は平成8年4月12日である。
結果および考察(1)
1.各区共に先駆植物のフサザクラ、ヤマハゼおよび高木性のウバメ
ガシが旺盛な伸長成長を示している。フサザクラは、この地域の
代表的な先駆植物であり、平均伸長成長量は、これまでの調査で
は10年間で300cm程度であった。これらのことからも試験地のフサ
ザクラは、導入当初に予測した成長量を示しているものと判断さ
れる。
2.ヤマハゼは、全体的な傾向として、5年目以降の成長が著しく、先
駆植物としての役割は十分に果たしていると考えられる。フサザ
クラとヤマハゼは落葉性であるため,旺盛な成長によって、多く
の落葉、落枝が土壌に還元されることになり、今後他の樹種の成
長が加速されるものと考えられる。
3.高木性のアラカシは、4年目以降の伸長成長が著しい。樹林化の
当面の目標である10年目には全ての試験区で平均伸長成長量が
100cmを越えることになる。ウバメガシは,各区と共に3年目以降
の伸長成長が著しい。
4.現在、最も伸長成長の小さい低木性のシャリンバイは、5年目ない
し7年目から伸長率が上昇しており、このままの伸長率が持続すれ
ば、10年目には当初の予測70cm前後を大幅に上回ることから、一
応の目安である10年程度での樹林化には問題ないと判断される。
結果および考察(2)
5. 成立本数では、全体的な傾向として先駆植物であるフサザクラとヤマハゼの 減少率が大きくなっており、この2種については、今後もこの傾向が継続し、 先駆植生としての役目を終えると考えられる。 6. アラカシは当初に比べると、成立本数が減少しており、伸長成長の増大に 伴って,この傾向は一層明確になると考えられる。ウバメガシとシャリンバ イは8年目では明らかな減少傾向は認められない。 n 以上、8年間の生育状況から判断して、今後これまでの生育状況や生育環境 が維持されれば、当初の目標であった10年程度で樹林化を目指すことが可能 であると判断される。 7. 本実験で用いた基盤材は、9年目の成長開始直前の平成16年3月28日の調査で も流出は認められなかった。これは、一部の試験区を除いて5年目で被覆率が 100% に達し、6年目には全ての試験区の被覆率に達したことと、被覆資材そ のものの持つ侵食防止機 能の相乗効果によるものと考えられる。 8. 試験地に都市住民、農山村および中間住民を案内し、実際に現地を見学して もらった後、そののり面が一望できる場所に移動し、全体の印象を訪ねた。 その結果を表-2に示した。のり面が葉によって生い茂っている夏と落葉し ている冬とでは、その割合にかなりの相違が認められるものの、全体的に、 地域に固有の植物を用いたのり面緑化に、地域住民はほぼ満足していると判 断される。ま と め
1.
導入した現地周辺の在来種の木本植物は、比較
的順調な生育を示しており、当初
10年程度で樹林
化が可能ではないかと考えていたが、8年間の調
査結果から、その妥当性が実証された。
2.
地域に固有の植物を用いたのり面緑化に、地域
住民はほぼ満足していると判断される。今回は、8
年目の調査であるので、のり面植物の成長と共に
評価も上がっていくと考えられた。
今後の課題
1.
樹林化の基本である種子をどのようにし
て確保するか
2.
播種量および具体的な検査方法の検討
3.
地域住民の意見をどの段階で、どのよう
な形態で取り上げていくのか
4.
除間伐をどのように考えるのか
導入木本植物 導入木本植物の伸長成長量 導入木本植物の成立本数 0 5 10 15 20 25 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 成 立 本 数 ( 本 / ㎡ ) 3ヶ月 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A1成立本数 導入木本植物 0 50 100 150 200 250 300 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 樹 高 (c m ) 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A1樹高
A2樹高 A2成立本数 導入木本植物 導入木本植物 導入木本植物の伸長成長量 導入木本植物の成立本数 0 50 100 150 200 250 300 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 樹 高 (c m ) 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A2樹高 0 5 10 15 20 25 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 成 立 本 数 ( 本 / ㎡ ) 3ヶ月 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A2成立本数
A3樹高 導入木本植物 導入木本植物 導入木本植物の伸長成長量 導入木本植物の成立本数 0 50 100 150 200 250 300 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 樹 高 (c m ) 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A3樹高 0 5 10 15 20 25 アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ 成 立 本 数 ( 本 / ㎡ ) 3ヶ月 6ヶ月 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 A3成立本数
種子配合タイプと成立期待本数
タイプ 成立期待本数(本/㎡) アラカシ シャリンバイ フサザクラ ウバメガシ ヤマハゼ イタチハギ ススキ A1 10 10 20 20 20 20 (15) (7) (2) (15) (3) (3) A2 10 10 20 20 20 20 200 (14) (7) (11) (11) (9) (3) (5) A3 10 10 20 20 20 20 1,000 (8) (6) (3) (13) (5) (3) (10) 注:( )は 8 年目の成長開始前の成立本数タイプ 成立期待本数(本/㎡) 導入木本植物 在来木本植物 イタチハギ ススキ
A
A1
90
20
ウバメガシ フサザクラA2
90
20
200
アラカシ ヤマハゼA3
90
20
1000
ヤブツバキ シャリンバイB
B1
30
20
アラカシ ヤブツバキB2
30
20
200
ヤマハゼ シャリンバイB3
120
20
200
チャノキ ヒサカキC
C1
60
20
ヤブツバキ ヤマモミジC2
120
20
ウツギ チャノキ ヒサカキ ネズミモチ 注:A1~A3,B1~B2,C1とC2には,それぞれの欄に示す6種類の 木本植物が導入されている。種子配合タイプ
樹種 発芽率 純量率 1g当たり の粒数 樹種 発芽率 純量率 1g当たり の粒数 % % % % アラカシ
72
86
0.6
チャノキ100
98
0.8
ウバメガシ70
86
1.5
フサザクラ36
68
536
ヤブツバキ63
88
0.9
ヤマハゼ42
73
8.5
シャリンバイ68
83
2.4
ヤマモミジ12
69
27.6
ネズミモチ46
68
19.6
ウツギ25
56
4,959
ヒサカキ5
58
1,312
イタチハギ74
68
87
導入木本植物の種子特
性
地域 夏 冬 周囲と調和している ハギが目立つ 周囲と調和している 違和感がある % % % % 都市 住民 75 25 95 5 農山村住民 70 30 95 5 中間 住民 75 30 95 5 平均 73.3 26.7 95.0 5 (220) (80) (285) (15) 1. それぞれの地域の住民100名に対する調査結果 2. 数字は質問に対し、そうであると答えた(肯定した)人数の割合 3. 松山市、伊予市、今治市、川之江市、宇和島市および重信町、川内町、松前町に住む成人300名へ の 現地での聞き取り調査結果 4. ( )は総人数300名の内、そうであると答えた(肯定した)人数 注
在来木本植物を用いたのり面の印象
全景(平成8年5月10日) ススキとヤマハゼ(平成8年10月24日)
全景(平成10年7月1日) のり枠工(平成10年7月1日)
全景(平成13年4月26日) イタチハギ(平成13年4月26日)
全景(平成15年12月26日) シャリンバイとイタチハギ(平成15年12月26日)
全景(平成16年4月30日) シャリンバイ(平成16年4月30日)